怪物たちは怪物たちを知っている -リアタイで見なかったオッサンがELLEGARDENを観た件-
獣は獣を知る。
黒鳥は常に黒鳥に、似たもので集まる。
beast knows beasts,
and always the blackbird to the blackbird, and others of the like kind.*1
何のことはない、ただの四十路オッサンの、ただのフェスの記録です。
思い出が鮮明なうちに記録に残しておこうかと思って、少しだけ残させていただきます。
1-3は個人的な(しかし僕個人としては不可欠な)前置きなので飛ばしていただいても構いません。本格的な2019RSR・ELLEGARDEN回顧録は4からお楽しみください。
1:謝罪 僕はエルレをリアタイで観ていない
僕はELLEGARDENというバンドが全盛期にあった2000年代後半、或いは日本のメロコア界隈がにぎわっていた音楽からは遠ざかっていました。たしか、10代の素行不良から高校中退、ようやく遅く入った大学を卒業して、学士号は取ったものの、様々な軋轢やしがらみから非正規の職を転々とし、ようやく今の職場に落ち着こうかというところ。
当時付き合った年下の女子大生と半同棲な生活をしながら、食える資格を取ろうと、サービス業を掛け持ちして食いつないでいました。
少しだけ思い出すのは、その頃一時塾講師をしていた時、カーステレオから聞こえてきたこの曲に「お、日本でもこういうバンド出てきたんだ」と思ったこと、かつて洋楽コピバンをやってた記憶から、「いいなあ」と素直に嫉妬したことです。
正直、日々の生活は厳しくも忙しく、一方で音楽にかまける余裕と素直さは持てず、気が付いたら人気絶頂のうちにELLEGARDENは活動休止してしまい、確かその年に大学を卒業した彼女とは、彼女が地元の九州帰ったこともあり、別れてしまいました。
ちょうど30代の入り口。当時隆盛していたMixiでは、今も構ってもらっているフォロワーさん経由で、このバンドとその後の細美さんのことを聞いていた記憶があります。
その後付き合った女性がどういうわけか細美さんとELLEGARDENのファンで、いろいろな音楽に造詣が深かったのと、当時の流行もあり、フェスに行ってみようと思い、確か2010年のライジングサンにいったのが、遅まきながら第一接触となった次第。泥だらけのスニーカーで、夜のthe HIATUSを聴いたときに、自分はどうやらかなり「綺麗なものを見つけては見失っていた」ことを自覚したのです。
「いつか活動再開するといいね」
そう語り合った彼女とも別れ、しかしthe HIATUSを追っかけてフェスに通うという、まるで失った第二の青春を追い求めて彷徨うような無様な壮年期の僕が、そこに居ました。
2:復活の予兆を勝手に気づいた2015年
さすらう中年は30代も後半になり、目標であった英検の1級も獲得して、フェス熱も冷めかけていた頃。2015年にMONOEYESが活動を始めます。かつて「日本のポップスをメロコア調にカヴァーする」バンドALListerのメンバーとして名を知っていたScot Murphyがベーシストとして参加することで「間違いない」バンドだと思った僕は、その1stシングルを聴いて、歌詞の内容に愕然と狂喜を綯交ぜにしたものです。
歌詞の引用は避けますが、この曲の大意は、以下のようになります。
「海辺の町で僕らの魔法は解けてしまった。大事な三つの言葉を口に押し込む。
夜の街の薄明が僕らの秘密を映す。僕らはいつか帰ってくる、ほどけて、もつれて」
この歌を聴き、僕はELLEGARDENの復活はある、と勝手に解釈したのです。
海辺の町は休止ライブの場、新木場。
三つの言葉はメンバー。
僕らはいつの日か帰ってくる―。
様々な事情も含め、2018年までがそのスパンだろうと予想した僕は、宿木で羽を休める鳥のように、雲の晴れ間を伺い続けました。
リアルタイムで聞いたことはないけれども、だからこそ復活した時には必ず聞きに行く。
そして2018年の年が明け、ELLEGARDEN活動再開の報がすべてのファンに届いたのです。
3:2019年のライジングサンへ
予想はしていたことですが、復活後のELLEGARDENのライブツアーチケットは即高騰し、入手不可能なファンが続出。
各地で聞こえる阿鼻叫喚と、ライブに行けた人たちの歓喜を仄聞し、これは大変なことになったと思ったものです。
しかしここで焦るべきではないと中年になったわたくしは回顧します。今までフェスで活躍し続けてきた彼らがその場に現れないはずはない。2018年はだめでも、2019年には、或いは。
2018年のJOIN ALIVEはなし、ライジングサンもなし。
リソースの乏しい自分に避ける余裕は僅かしかない。ならば2019年を待とう―。
そして2019年、とうとうライジングサン二日目に参加が決定。
チケット抽選に申し込むも当然、最初は当たらず。まあ無理かもな、と達観していたところ、開催直近のリセールで通し券が当たり、これは行かざるを得ないと覚悟を決めました*2。
ところが、蓋を開けてみると台風10号のフェス参戦が決定し、目玉であるNUMBER GIRL出演の初日が史上初の中止。
すわ二日目も中止か、ならば家でサマソニ中継を観ようか、とは思いつつ、長靴を買って待機していたところ、開催が決定。
やはり今年はツイている。予感が確信に変わったものです。
4:201908172100
1. Fire Cracker
2. Space Sonic
3. モンスター4. 高架線
5. Supernova
6. Pizza man
7. 風の日8. The Autumn Song
9.金星10. Red Hot
11. ジターバグ
12. Salamander
13. 虹14. Make A Wish
15. スターフィッシュ
20時過ぎ、トイレを済ませて水分を補給した僕はサンステージに早足で歩いた。
予想通り、物販で買ったTシャツを身に着けたオーディエンスが、既に大量に集まっている。湿った地面を踏みしめて、どうにかステージから指呼の距離くらい、10-20列目くらいに潜り込んだ。
周りを見回すと、様々な年齢層がいる。どちらかと言えば僕より若い人が多そうだが、同年代位の人も少なくはない。そのそれぞれの面構えが、まるで『進撃の巨人』の調査兵団ルーキーズの如し*3。
サウンドチェックからの長い待機時間も、それぞれがしゃべりながらあっと言う間に過ぎていく。僕は話さずに今までのこと(1-3)を振り返って万感の思いに至った。
開始数分前、照明が落ち、RSR二日目の恒例、花火が上がる。初めて来たときに、当時の彼女と見た花火と同じだ。でも別にさみしくはない。あの時にはあの時の幸せがあり、今は今の幸せがある。少なくとも僕は、前に並んでベタつくカップル*4よりも身軽で、どうとでも動ける状態にある。全力でぶつかれる。
花火が終わったときに僕は直感した。これはフジロックのセトリで最初に持ってきたFire Crackerからだろう、と。
そして、サンステのステージにELLEGARDENの最新ロゴが移される。BGMとともに暗闇の中メンバーが登壇する。始まる圧縮。波のように押し寄せるオーディエンスに合わせ、僕も前方へ詰め寄る。既に幾らか涼しくなった空気が、人の熱波の中、一気に熱く、薄くなる。
イントロダクションが始まるや、歓声が上がった。僕も上げた。リフと共に、始まるoiコール。壇上のメンバーが動く。隣を観ると、汗だくになって茶色い髪を白皙の顔に貼りつけた150cmにも満たない女性が、ボロボロ泣いている。ああ、「そう」だよなあ。泣けないけど、きっとリアタイのファンだったら「そう」なんだろうなあ、と思いながら、歌詞をチャンツするのが止められない。みんなこの瞬間を待っていたんだ。これがエルレだ、歴史だ。
おそらく、2000年代後半の青春を過ごして、10年後に持ち越してきた何万人かが、今ここに集っている。少し申し訳なくなった。僕はELLEGARDENファンとしては不純かもしれない。
一曲目はまず全開で会場全体がスタートを切った。
ギターのアルペジオが流れたとき、再びエールが起きる。こんなに前ノリの曲ばっかり連発していいのか。思いながら、壇上の細美さんの歌いだしを諸手を上げてオーディエンスは待つ。insane≒狂気、それはこの場を支配する感情そのもの。歌詞は友人や恋人にぶっちぎられた惨めな人間の泣きの歌だが、ここでは「それ」がエナジーに昇華される。いいじゃん、やっぱ。it just rainsの大合唱で、さっきの涙も吹っ飛ぶってものだ*5。終わりと共にyeahの声を上げずにはいられなかった。
次のイントロが流れた瞬間、ああ、今日までの自分は間違ってなかったと実感。自分が初見でELLEGARDENのアルバムを聴き始めたときに、「日本語でもこんなに良い歌詞かけるんだ」と驚いたこの曲が来た。たまらずhoooooと叫んだ、年甲斐もなく。周りもこの曲に驚いていたかもしれない。ダイバーが後ろから押し寄せる。両手でそれを前に流す。大合唱、大合唱。みんな砂時計の砂を両手で抱えて、乾いた現実の音に震えながら、どうにか揺らぎながら僕らはここまでやってきた、その思いが何万人分炸裂する。馬鹿だったかもしれないけど、それしかなかったよな。
MCで「待たせてごめんね」という言葉の後、メンバーそれぞれが思いを語ったのは、ここだったか。その言葉はSNSで探してください。必ず思い入れの深いファンがやってくれてます。
日本語の曲、再び。コンパクトだけど乗れる曲が続く。誰かが言っていた「ほぼベストアルバム」というフジロックの評価も頷けるけれども、とにかく盛り上げられる曲を持ってきている。みんなそりゃあ歌う。気が付けば全員熱の中で拳を振り上げてしまう。失恋の歌が全く悲しくないのは、一種の魔法だよな。
合唱は止むことがない。みんなずっとこの曲をコピーしたりカラオケで歌ってきただろう、そんな曲が生で演奏されるのだもの、この時ばかりは決然として周りを気にせず英語を使うってもんだ。oiコールのタイミングもずれず、この曲も待ち望んでいたんだ、と僕らオーディエンスはバンド側に返す。There is nothing ”we” can do as well but to dream ”you”*6all the time だったんだぜ。
この曲も聞けるとは思わなかった。歓声が鳴りやまないとはこのことである。コーラスの部分もみんなが合わせられる。ダイバーをもう何度かわからないくらい前に押しやって、フェスの会場ではありがちな人の波の横と縦揺れ。気が付けばどんどん前に流されていて、最初の位置で観ていたカップルはどこかに消えていた。まあ、健闘を祈るよ。
確実に皆が歌えて、気持ちよくなれる曲を持ってきてくれる。僕だってつい歌ってしまうような曲で、会場は歌声とエールが止まない。みんな普段は嫌がる他人の体の汗と熱量も、今だけは問題じゃない。むしろ、この熱気の中でバンドを観て、時折跳ねるときに体が波の上に上がって空気を吸う、そんな感覚が、一つのフィットネスになる。
北海道の夏はもう終わるだけだから、この曲はピッタリだ。今日の夜はもう寒くなる。we can party around the clock but、そうだった。夜通しミミックDJパーティーしたってさ、ライブには勝てやしないんだ。 だから万難を排してここに集ったんだろう、僕らは。曲の終わりごろには気が付いたら柵の辺りで、波の強さを再認識する。
エルレでチルアウトと言えば(そうでもないが)この曲。みんな本当に泣くんだな。周りの女子はほんとうに目頭抑えていた。はっきりと言わない言葉に人を傷つけて、傷つけられてきたか。そんなことを思いながら波は横に揺れて、でもワイプなんかは絶対しない。そんな隙はない。襟足だけ金髪にブリーチした細美さんの、ステージ上の姿を、みんなが諸手を上げて見つめながら揺れる。凪の時間だ。
「お前らが怪我するのはいいんだけどさ、他人傷つけたりしないように」
このMCは後半の畳み掛けを暗示していたんだよなあ。
Aメロのギターが始まるとともに、拳を振り上げる。後ろの方でモッシュピットが生まれる。サビで跳ねる、ダイバーが波に乗る。楽しくて仕方がない。
―そうか、こんなことがリアタイでは起きていたんだ。良かった、リアタイじゃなくて。リアタイだったら正気じゃいられなかったろう。いや、今も正気じゃないけど。こんな楽しさもあったんだぜ。また流されて、気が付いたらスキンヘッドの白人さんが前に居た。なんでセキュリティじゃない外国人がいるのやら。
イントロでまた鳥肌が立つ。全員で歌う、「一切の情熱が掻き消されそうなときには いつだって君の声が この暗闇を切り裂いてくれた」みんな暗闇をエルレの音楽で、この曲で、切り裂いてきただろう。かつて細美さんが友人に励まされた時のように。そういう感情の増幅って例えようもないけど、それをこういう曲に乗せて届けてくれる現時点にすべての感謝を、と思う。
中盤でだれてくる身体に休みなんて与えない。むしろ両手を挙げてスライドしよう、勝負はここからだ。目の前の白人さんに聞こえるように、just let it slideと叫ぶ。ここがみんなの部屋で、誰も気にしないのだから、ひたすらそれに流されるままに。白人さん、頷いて右拳を上げてくれていたよ。
気休めくらい、なんてもんじゃない。ここでこの曲ってことは、再度の決意表明。積み重ねた様々なものを砕かれても、この場が最高の思い出となって僕らを再び勢いづける、安堵と自信。もう体はすっかり熱に塗れて汗だくなんだけど、まったく不快に感じないほどアドレナリンが出ている。ダイバーに肩を叩かれる、背中を貸す、前に泳ぎだす。もう慣れっこになっていく。
「なんでみんなに歌わせてんだって怒られるんだけど、俺みんなの声聞きたいんだもん」
そういうMCで始まったこの曲に否やはなくて、皆がもう数え切れないほど歌い継いだ、忘れようもない歌詞が、チャンツされる。大型モニターには肩を組んで歌っているオーディエンスも映し出される。僕は両手を挙げて歌う。この曲で英語が得意になった人いるんだろう。いるんじゃないかな。多分いると思う。いてほしいな。コーラスではモッシュピットがぶつかり合って、ダイバーがまた前に行ったり、力尽きて途中で沈んだりする。みんなそろそろ気づいてる、祭りが終わることを。
まだコンビニでこの曲はかかるんです。その度に何度、エルレを生で観たい、もう一度観たい、そう思った人がいたことだろう。靴紐がほどけたときに、終電を逃して歩いて帰るときに、何度この曲を思い出し、夜空を見上げたたことだろう。細美さんに言われてこの時の夜空を見上げたら、本当に星が出ていたので、僕は確信を真実だと認識できた。
全てが最後のギターストロークとエコーで終わっていく。大歓声、大歓声。
終わった後、容易には動けない人並みの流れの中、体がぐっしょりと汗だくで、急速に体温が下がって、こりゃあヤバいと思いつつ、それでも、よかった、と感じていて、人は矛盾の塊だよなあと思いながら、僕はTシャツを着替える場所を探して歩き始めた。次のアクト、My hair is badファンのうら若い女子達にぶつからないよう、最新の注意を払いながら。
5:あとがき
2019のRSRは初日が「鶴」台風の影響で中止になったり色々と大変だったのだけど、とにかく2日目の内容は濃くて、この後もDoragon Ashまで色々と楽しんだんですが、とにかく僕にとって一生の思い出になるようなELLEGARDENの「遅すぎる初体験」だったので、ここに残さずにはいられないな、と思ってブログにしてしまいました(二時間書き通した)。
今でも先週の記憶は蘇ってきて、何やかや思いつつ、観てよかった、今回限りでフェス通い辞めてもいいな、と思ったくらいです。
9年間を一気に取り戻してもう一度青春を感じた人、僕以外にはもっとたくさんいただろうなと思いながら、あの当時モンスターだった僕らは、再びモンスターとして集ったのだろう、と、冒頭のアリストテレスの言葉を思いついた次第です。
では、また。
*1:T,Taylor "The Rhetoric, Poetic, and Nicomachean Ethics of Aistotle Translated from the Greek" p.71 Rhetoric, chap.XⅠより拙訳 https://books.google.co.jp/books?id=TsgkAAAAMAAJ&pg=PA71&lpg=PA71&dq=beast+knows+beast;+and,+always+the+blackbird+to+the+blackbird,+and+others+of+the+like+kind+greek&source=bl&ots=d_LStKvkus&sig=ACfU3U15gs5du1ix8U8fW4GHkTuGGEABJw&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjqtdfE8JnkAhW0NKYKHYrwDGQQ6AEwAHoECAkQAQ#v=onepage&q=beast%20knows%20beast%3B%20and%2C%20always%20the%20blackbird%20to%20the%20blackbird%2C%20and%20others%20of%20the%20like%20kind%20greek&f=false
*2:近年の転売防止チケット販売については色々と思うこともありますが、ここで議論するのは控えます。本来フェスと言うのは行きたい人が行けるものだと思っておりましたが…。
*3:詳しくは諌山創『進撃の巨人』第15話参照 https://xn--u9j4g9dxd292pfbtfskdg9f.com/%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%AC/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%AC%E7%AC%AC15%E8%A9%B1%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%89%E3%81%99%E3%81%98%E3%81%A8%E6%84%9F%E6%83%B3%E7%94%BB%E3%83%90%E3%83%AC/
*4:ダイブ・モッシュ発生確実なバンドのアクトで最前線に行くのは女性といるとなかなか楽しめないので僕はお勧めしない。その人が慣れていても、あんなに押しつぶされてしまう環境だとこっちの気が散ってしまう。修行が足りませんかねえ?
*5:それにしても細美さんの歌詞には雨が多い気がする。北国の人間からすると、関東の人の感覚だなあと思ってしまう。